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事業等のリスクの記載とその使い方
 
 サイゼリヤのデリバティブ関連に続き、投資家からの質問、回答シリーズ第二弾です。

<質問内容>
有価証券報告書に「事業等のリスク」という項目がありますが、ここに書いてある順番は、会社側が認識する重要度の順番に並んでいると考えてよいのでしょうか。
ある項目の順番が年々変わっているということはその項目の重要度も年々変わっていると判断して構わないのでしょうか。
また、「事業等のリスク」には「書かなければならない」ルールや基準などはあるのでしょうか。

<回答>
事業リスクの重要度の順番に並べることは、開示制度上は要請されていませんが、そのような方針で記載している上場会社も存在する可能性はあります。
上記に記載した「リスク重要度を意識している会社」があるとすれば、それに応じて記載順序を並べ替えている可能性があります。なお、開示内容の項目そのものについては、毎年の有価証券報告書提出時の事業のリスク内容に応じて、改変されているのが通常です。
「事業等のリスク」の記載上のルールは、「企業内容等の開示に関する内閣府令」の有価証券報告書の記載様式に関する記述の「記載上の注意事項」の部分に以下のような記述がなされています(条文上は、有価証券の募集・売出時に提出される有価証券届出書の記載上の注意事項の読み替え規定があります)。
事業等のリスク
 有価証券届出書(有価証券報告書)に記載した事業の状況、経理の状況等に関する事項のうち、財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の異常な変動、特定の取引先・製品・技術等への依存、特有の法的規制・取引慣行・経営方針、重要な訴訟事件等の発生、役員・大株主・関係会社等に関する重要事項等、投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項を一括して具体的に、分かりやすく、かつ、簡潔に記載すること。
 将来に関する事項を記載する場合には、当該事項は有価証券届出書(有価証券報告書)提出日現在において判断したものである旨を記載すること。


<以下解説>
 有価証券報告書上の「リスク情報」に関して、開示制度の条文上規定があるのは、上記の規定だけです。従って、実際に「どのような内容を投資者の判断に重要な影響を及ぼす可能性のある事項として定義するか」、それを「どのような整理・区分でどこまで記載するか」は、各会社の判断にゆだねられています。商売柄、多くの有価証券報告書を見る機会がありますが、各社の開示姿勢については、大きく以下のようなタイプに分類されるのではないかと思います。

(1) 法定開示書類としての最低限の体裁を整えることだけを意識した記載
 法定開示書類に記載箇所があるので、やむなく思いついたものだけを簡潔に記載しているパターンです。なるべく細かいことは開示したくないという姿勢がミエミエで、弁護士等のチェックもきちんと受けていない可能性があります。東証2部やJASDAQにかなり古くから上場する「出来高が少なく、業績もぱっとしない地味系オーナー企業」などに多いかと思います。毎年、一文字たりとも記載が変わらなかったりすることもあるようです。

(2) 法定開示書類に関する虚偽記載リスクをそれなりに意識した記載
 法定開示書類ですから、「誤解を生じさせるような内容、偽の情報を記載している」、「明らかに重要な事業リスクが記載されていない」ということになると、いわゆる「有価証券報告書虚偽記載」の罰則の対象となってしまう可能性があります。このリスクを十分に意識して、社内で毎年それなりの検討をし、弁護士、会計士などのチェックを受けたものを記載するパターンです。記載様式的には以下のように区分できそうです。
(ア) 上記「記載上の注意事項」の例示記載順序に沿った記載
 オーソドックスに教科書どおりの記載をしている開示パターンです。リスク項目はほぼ網羅されているとは思いますが、あまりメリハリがないので、やや読みづらい印象があります。
(イ) 会社独自の整理区分に基づく記載
 情報が豊富な上、ロジカルでわかりやすい記載をしている優等生企業の開示パターンです。会社担当部署の皆さんの「賢さ」がにじみ出ていることもあります。
(ウ) 同業他社(特に業界トップ企業)の記載順序を意識した記載
 業界2番手以下の企業にありがちな開示パターンです。あまり自分で考えず、すぐに同業他社事例をチェックすることが得意な監査担当会計士の指導の賜物かもしれません。
(エ) その他
 上記3つの区分のどれにもあてはまらないような記載をする開示パターンです。

 もともと、このようなリスク情報の記載も、米国SEC上場企業の年次報告書(Form10−K,Item1A RISK FACTORS)の輸入物です。(武田薬品が買収した米国のバイオベンチャーのForm10−Kのリスク情報(P.17〜)を見ると、あまりに量が多すぎて、読んでいるだけで間違いなく投資する気が失せます。)
 
 日本では、かつて新規上場時等に提出する「有価証券届出書」の中でのみ、「事業の概況等に関する特別記載事項」として開示が要請されていましたが、平成16年3月期から、上記内閣府令の改訂に伴い、全上場企業が提出する有価証券報告書においても開示が義務化されました。(考えてみれば、事業等のリスクは上場時だけに特有のものではありませんから、継続開示こそがあるべき姿であるといえますよね。)

<リスク情報の上手な使い方>
 投資家としては、財務諸表本表のみならず、この「事業等のリスク」を投資前に熟読し、昨年の記載内容とも比較することは必須かと思いますが、それにも増して、この記載内容は、「企業のビジネスに関する定性分析のスキル向上訓練」に使えます。
 「初めて分析する企業の事業概要を把握し、主要な経営指標の推移を見ただけで、リスク情報に記載が想定されることをいくつ思い浮かべられるか」こういった訓練を続けていくと、かなり企業分析能力が向上するはずですので、皆さんもお試し下さい。(私は上場審査官時代、最初の数ヶ月はこの訓練ばかりやっていました。)

<終わりに>
 今後も少し時間ができた時には、上記のように「個人投資家の皆さんからのご質問」に回答していきたいと思いますので、個別銘柄の投資判断以外の財務・会計・開示制度等について、「個人投資家全員でシェアできそうな質問」がある方は、ブログ右肩のProfile欄にあるメールアドレスまで、ご質問下さい。すみやかな回答は難しいかもしれませんが、心に留めておきたいと思います。そのかわりと言っては何ですが、「記述内容が役立った」と思われる読者の皆様は、自らのブログでの引用、ご友人へのこのブログの推薦などをお願い致します。(皆様の口コミと継続訪問こそが、私の書き続けるモチベーションの源泉です。)
| cpainvestor | 07:59 | comments(3) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment
cpainvestorさん

ひとつだけ補足させて頂きます。
cpainvestorさんはご存知かと思いますが、新規上場時のみ「リスク情報」の記載の妥当性についてかなり詳細な審査を受けています(主幹事証券、取引所、(財務局)によって)。
そのため、最近上場した企業は相応にリスク情報が充実していますが、上場後にリスク情報の開示が義務付けられた企業(これが殆どですが)の中は、十分な検討もせずに記載項目を決定しているケースも散見されます。
ですので、「リスク情報」を「定性分析のスキル向上訓練」の題材とするのであれば、新規上場銘柄や上場後の期間が短い銘柄の方がよいと思います。

Posted by: ipoconsultant |at: 2008/12/07 3:44 PM
ipoconsultant様

フォローをありがとうございます。
おっしゃるとおり、上場審査のプロセスでは、「リスク情報にどこまで書かせるか」がひとつの審査のヤマですよね。
Posted by: cpainvestor |at: 2008/12/09 8:52 AM
質問者ですw

予想以上に詳細なご解説、ありがとうございました。大変参考になりました。

ある企業のリスク情報を3年並べてみましたところ、順番が変わっている項目が複数ありましたので気になって質問しました。
その企業はどうやら重要度の認識順に記載しているような印象を受けました。

いつも単年度でしか見てなかったので、時系列でみると新たな発見があって有意義だと思いました。

複数年度&同業他社&異業種と立体的にみるとかなり多くのことが分かると思いますが、時間が・・・(笑)

ipoconsultantさまもコメントありがとうございました。
参考にさせていただきます。
Posted by: Retriever |at: 2008/12/09 10:30 AM








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