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2009年3月期決算チェックに当たっての会計・税務上の留意事項(後編)
 
 前回に引き続き、「2009年3月期決算短信」チェックに当たっての会計・税務上の留意事項を記載致します。(各小見出しの右側カッコ内に符号がある場合は、それが当期決算上の利益に与える影響を示しています。)
 なお、前回同様、下記の解説は、筆者の私見であり、制度の内容や解釈の正確性を完全に保証するものではないことをあらかじめご了承下さい。制度の内容等につきましては、必ず原典をあたった上で、信頼できる専門家にご相談下さい。

2. 会計制度の変更・実務対応指針等の公表に伴うもの

(ア)  金融資産の保有目的区分の変更による影響(+)

 昨秋からの金融危機の影響で、一部債券の評価にあたり、保有目的区分の変更(売買目的有価証券からその他有価証券への変更などが典型例)が認められ、一定時点から時価評価が行われなくなっているものがあります。(マスコミに「時価会計凍結か?」とか騒がれたアレです。)企業会計基準委員会が苦虫をかみつぶしながら作成したと思われる原典(実務対応報告)はこちらです。既に第3四半期の金融機関の決算において、その影響額が開示されていますが、09年3月期本決算においても、当該変更の影響額が「連結財務諸表作成に係る会計処理の原則・手続、表示方法等の変更」として開示されるはずです。会計というモノサシの変更だけで損益が改善されている部分は、投資家として割り引いて見る必要がありますから、特に金融機関の決算を見る際には、必ずチェックされることをお勧めします。


(イ)  棚卸資産の会計基準の変更に伴う影響(−)

 09年3月期から新しい棚卸資産の会計基準が強制適用となったことで、棚卸資産の評価がいわゆる低価法で行われることとなり、これまで、取得原価で評価することを原則としてきた(原価法を適用してきた)企業は、棚卸資産の低価評価損が当期より売上原価に算入されていることになります。(会計基準変更に伴い、前期以前の在庫に起因する低価評価損は特別損失計上となっているはずです。)この基準が適用されたことで、09年3月末の棚卸資産評価額の健全性は以前と比較して増していると考えられますが、この変更により売上原価率が上昇している企業も多いかと思います。この変更に伴う損益への影響額も、重要性が高い場合には必ず財務諸表に注記されているはずですから、「今後、毎期発生する可能性が高い損益インパクト」としてチェックされることをお勧めします。


(ウ)  リース会計基準変更に伴う影響(±)

 同じく、09年3月期より、新しいリース会計基準が強制適用となったことに伴い、契約価額が3百万円以上のファイナンスリースは、原則貸借対照表にオンバランス処理(資産の部にリース資産が計上され、負債の部にリース債務が計上される)され、ファイナンスリース取引の多かった会社ほど、貸借対照表のサイズが膨れているはずです。(実務上は、例外的に認められた簡便処理を採用して、前期までのファイナンスリース資産・負債は注記をそのまま続け(オフバランス処理)、当期以降に契約したもののみ資産・負債の両建計上をしている会社も多いと思われます。)原則処理と簡便処理のどちらを採用しているかによって、貸借対照表のサイズの変化の影響は大きく異なりますから、必ず処理方法を財務諸表注記にて確認することをお勧めします。 
 また、リース会計基準の変更により、上記原則処理を採用した場合には、3百万円以上のファイナンスリース契約に係る支払リース料が損益処理されることはなくなり、かわりにリース資産の減価償却費と支払利息相当額が損益計算書に計上されることになります。これまでの支払リース料であれば、全額売上原価か販管費で処理されていましたが、新しいリース会計基準が適用されると、支払利息相当額分だけは、営業外費用として処理されることとなるため、支払リース料>減価償却費+支払利息の場合には、利息相当額分だけ営業利益がかさ上げされることになります。このあたりの金額的影響も重要である場合には、必ず財務諸表に注記されるはずですから、営業利益の経年比較をなさる場合には、その影響額分を加味することをお勧めします。


2. 平成21年度税制改正に伴うもの

(ア) 海外子会社等からの受取配当金益課税撤廃(+)

 平成21年度の税制改正により、海外子会社等からの受取配当金に関する国内課税が撤廃されています。(原典はこちらのP.10)この結果、海外子会社・関連会社の利益貢献度の高いグローバル企業においては、過去に計上されていた繰延税金負債が取り崩されるなどして、当期の税金費用の負担が大きく減少している可能性があります。これに伴う税引後利益のかさ上げ効果は、来期以降も継続するため、企業にとっても投資家にとっても望ましいことではあるわけですが、当期はこの税制改正に伴う税金費用金額減少の変化が大きいはずですから、影響額がどれくらいあったのかは、必ず確認することをお勧めします。

 以上、舌足らずな部分も多いかとは思いますが、投資家の皆様が09年3月期決算をチェックするにあたっての会計・税務上の主な留意点について解説致しました。会計専門家の皆様で、私の記述に誤りを見つけた場合には、コメント欄にて指摘もしくは補足頂ければ幸いです。

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| cpainvestor | 00:30 | comments(8) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment
はじめまして。
2.(イ)の棚卸資産の会計基準の変更に伴う影響について、気になったのでコメントします。
いわゆる低価法っぽくなったのは確かですが、会計方針自体は、原価法+簿価の切下げ云々となるかと思います。
やはり一般的には低価法になったという認識なのでしょうか。
Posted by: Mori |at: 2009/04/23 7:30 AM
はじめまして。
2-(ア)は海外子会社の内部留保×法定実効税率分が今まで法人税等調整額で利益から控除されてきたと理解すればいいのでしょうか。
Posted by: Qr |at: 2009/04/24 5:37 AM
続けてのコメントですいません。
今CANONの有報を見たのですが、100億円強繰延税金負債として積み上がっているのですがこれが一度に取り崩されるのでしょうか。
Posted by: Qr |at: 2009/04/24 5:58 AM
mori様

ご指摘のとおり、原価法+簿価切り下げが注記上は正しい表現ですね。

ただ、実質的には従来からあった低価法をより厳格にしたようなイメージであるような気がしています。
Posted by: cpainvestor |at: 2009/04/24 7:02 PM
Qr様

 繰延税金負債に計上されている金額は、ざっくり言って以下のような金額が法人税等調整額として過去に控除されてきたものであると言えます。

海外子会社の内部留保×(国内の実効税率−所在地国の実効税率)

 この差額納付が撤廃される以上、海外子会社配当金にかかる繰延税金負債は全額取り消されることになるのだと思います。

 将来にわたり継続的な税負担の軽減につながるわけですから、企業価値にプラスの影響を与えることになろうかと思います。











Posted by: cpainvestor |at: 2009/04/24 7:28 PM
ご解答して頂きありがとうございます。
外国税額控除後の所得に対してなされる二重課税がなくなると理解すればいいのでしょうか。
利益のかさ上げと言う観点以外にも二重課税がなくなることになればいままで留保されてきた海外の資金も国内に還流されるということも期待できるのでしょうか。
どうも受取配当等に係る税制はややこしく感じられますね。実質国内関係会社以外の内国法人の配当等には二重課税がされていますし。
Posted by: Qr |at: 2009/04/24 9:03 PM
Qr様

 おっしゃるとおり、外国税額控除後の所得への二重課税がなくなるというのが、今回の改正の本質的な意味です。

 ご指摘のように、経済政策上の観点から、海外の留保資金をなるべく日本に吸い上げるインセンティブが働くようにとの趣旨で、課税当局はこの税収減を受け入れたことになります。

 ただ、このように改正されたことで、海外の低税率国で利益獲得をした方が、着実にグループ全体の利益取り分が増えることがよりはっきりしたわけですから、そういう方向に取引条件、価格をグループ内で組み替えるなどのグローバルベースでTAXプランニングを行う企業は今後益々増えることになるでしょう。

 そうなると、課税当局も黙っていないわけで、関係会社間の取引価格の妥当性などにつき、移転価格税制の観点から、より厳しいチェックを行うようになるのかもしれません。

 企業と当局のイタチゴッコはずっと続きそうな気がします。
Posted by: cpainvestor |at: 2009/04/26 12:28 PM
 ご回答有難うございます。並びに度々のコメントで恐れ入ります。
 先のご回答の中で移転価格税制について触れられていたのでホンダの有報を見ていたのですが利益剰余金が5兆円強でその内の3.3兆円が海外子会社の未分配利益なのですね。これを見ると国税庁に目をつけられるのも解るような気がします。
 又繰延税金資産の取崩しについても触れられておりましたが、繰越欠損金の控除可能期間についても有報にはきちんと記載されているのですね。恥ずかしながら今までそこまできちんと内容を見ていませんでした。
 今回のコラムは有報の見方について株式投資又それ以外の観点からも大変有意義に感じられました。これからも激務の中大変かと思われますがブログの更新を楽しみにしております。
Posted by: Qr |at: 2009/04/29 8:55 PM








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