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貧困大国アメリカ


 「新書」というのは、「ちょっと知りたいこと、興味を持ったこと」を軽く読めるのが売りだと思うのですが、表題の本は、新書に求められる期待レベルをはるかに越える「米国社会の負の部分」に焦点をあてた徹底取材に基づくルポルタージュで、「一読の価値あり」と思ったのでここで紹介することにしました。

                         

 (低所得者層の医療制度の崩壊)

 病院の民営化、製薬業界、医療保険業界のあくなき利益追求によって、米国の医療マーケットは活性化しており、オカネさえ払えれば世界最高水準の医療サービスを享受しうる環境が整っています。ただその一方で、低所得者の医療制度は実質的に崩壊しており、中流階級の家族の暮らしも、家族の誰かが一回の大病を患っただけで、あっという間に貧困層に転落する様子が、多くの個人の経験談によって明らかにされています。入院・施術コストが馬鹿高いので、貧しい妊婦は、「日帰り出産が当たり前」という現実には、本当に考えさせられます。「貧しい人間が受けられる医療サービスとしては、日本が世界最高水準にある」というのは、あながち冗談ではないのでしょう。

 (低所得者層の若者がイラク戦争を支えている現実)
 高騰する教育費を負担することができない貧困層の若者、不法移民の親達に連れてこられた市民権を持たない若者が、大学進学のチャンスを得たい、市民権を獲得して少しでも良い条件の仕事につきたいと考えた場合に、実質的な意味での唯一の方法は、「軍隊に入隊し、除隊後に奨学金を得て大学に進学すること」しかありません。また、多額の学生ローン、クレジットカードローンの返済に悩む大学卒業者も「軍隊に入隊して返済する」とい方法が現実的な選択肢となっています。このような事情で、軍隊に入隊し、最末端の兵士としてイラクの前線に派遣された貧困層の若者が、無事に帰国できたとしても、その6人に1人がPTSDに苦しんでいるという現実が、何人もの従軍経験者へのインタビューをもとに淡々と綴られています。

 米国の貧困層に焦点をあてたインタビューの積み上げと、これに基づく著者のジャーナリスティックな意見の部分が多いので、「データによる裏付けが少なく、かなり偏り過ぎた内容だ」という違和感を読後に持つ方もいるかもしれません。ただ、「極端な資本主義と自助」のみに頼った社会制度には、多くの歪みが生じるという事実をわかりやすい事例によってこれでもかと紹介する手法は、読者にとってなじみやすいことは確かです。
 著者の女性が、米国野村証券に勤務していたバリバリの高学歴キャリアウーマンで、「911テロをすぐ隣のビルから見ていた衝撃がジャーナリスト転身へのきっかけとなった」というあとがきのエピソードもまた興味をそそられまます。
 
 同じ新書でも歴史と伝統のある岩波新書は、読み応えのある硬派なものが多い印象を受けます。この本も新聞や雑誌の報道レベルでは伝えきれない内容が記述された労作だと思います。ご興味を持たれた方は、お読みになると良いと思います。

 

| cpainvestor | 23:41 | comments(4) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment
現与党は、今のアメリカの医療制度を目指していましたね。

2chの医者・病院版では、4年程前から「医療崩壊」という言葉が頻出していました。一勤務医として僕も遠からず、その日は来るだろうな、と思っていました。
患者の立場から見ても、働き盛りの世代が大病を患った時のサポートは十分とは言えず、「みんな、病気したら、どうしているんだろう。」と思っていました。

この本は読んでいませんが、「貧しい人間が受けられる医療サービスとしては、日本が世界最高水準にある」は数年前までは、そうだったと思いますが、現在は果たして、その位置を保持できているのか、と思います。特に「ある程度の質が保たれた医療へのアクセス」という点では、かなり悪くなっていると思います。
Posted by: のっぽ187 |at: 2009/07/19 12:03 PM
のっぽ187様

現場にいるお医者様からすると、確かに「ある程度の質が保たれた医療へのアクセス」が以前に比べてかなり悪くなっているということなのでしょうね。

ただ、この本を読むと米国の低所得者の惨状はむごすぎて、日本国民は現状に相当感謝しなくてはいけないと思えるような気がします。
Posted by: cpainvestor |at: 2009/07/23 12:45 AM
米国の医療費が高い原因は
治療失敗した場合の巨額な賠償にあるといわれています。
行き過ぎた患者よりの裁判判断は医療コストを増大し、かえって患者に不利な状況を作り出しました。
Posted by: Uesugi |at: 2009/07/30 11:13 PM
Uesugi様

「個人(個々事例)の最適化が全体の最適化につながらない」という経済学でよく出てきそうなパラドックスみたいですね。

 確かに米国の産婦人科などは、訴訟リスクが高すぎて、医者側の保険料負担が大きすぎ、小規模クリニックはどんどん廃業しているというようなことがこの本にも記載されていました。
Posted by: cpainvestor |at: 2009/08/02 1:12 AM








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