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JALの窮境原因について考える(その5、最終回)


 JALの分析もいよいよ最終回です。多くの皆様のご訪問と有意義なコメントに感謝しつつ、今回はJALの真の窮境原因と再生可能性について考えてみたいと思います。

 これまで、JALの業績悪化要因について、いくつかの角度から分析してきましたが、その内容を一言で総括するならば、「外部環境の急激な変化への対処が決定的に遅れた」という一言につきるのではないでしょうか。

収益環境悪化への不十分な対応とスピード感の欠如
 国際線は収入単価(旅客キロ当たり売上単価)が国内線よりも圧倒的に低く、その中で燃油単価(変動費単価)だけがどんどん上昇したわけですから、限界利益率悪化という形での外部環境の変化が国内線よりずっと早いスピードで進みました。これに加えて需要変動のボラティリティも国内線より大きいという性質があります。このような環境下で、国際線を主力とする企業が生き残るためには、自社のコスト構造を、抜本的に変えていくしかありません。具体的には、下がり続ける限界利益率と著しい需要変動にも対応できるような、抜本的な固定費の圧縮や変動費化をできるだけ早いスピード感で実施することが必要不可欠だったわけです。

 窮境原因分析その3で説明したように、現在のJALの航空運送事業の営業費用内訳を見ても、間接費配賦額の負担が重くのしかかっています。JALも手をこまねいていたわけではなく、JASとの統合後、重複拠点のリストラやシステム統合など、間接費削減も進めてきましたが、結果から見れば、全く不十分であったということでしょう。
 また、退職給付費用を含めた人件費削減についても、JALは過去5年間で10%程度の人員削減、厚生年金の代行返上、契約制フライトアテンダントの採用拡大、新人事制度の導入等を、強力な労働組合が比較的受け入れやすそうな施策から順番に進めてきました。ただ、この程度の人件費削減では全く太刀打ちできないほど、この5年の収益環境の悪化は激しいものがありました。
 不採算路線の問題に関しても、過去からずっと懸案事項だったはずですが、政治的な圧力等もあり、なかなか廃止の決断ができなかった(監督官庁の実質的な許可が下りなかった?)というところが真相なのかもしれません。

 間接部門費や人件費の削減には、8つの労働組合が立ちはだかり、不採算路線の廃止には、過去の経営危機時に支援も受けている監督官庁や政治家の圧力があったのではないでしょうか。これは国策企業の宿命なのかもしれませんが、利害関係者が多すぎることで、「少し経営状況が良くなると、大胆なコスト削減策実施は先送り、規模縮小化」ということが続いてきたのではないかと思います。その結果、高固定費体質がずっと温存され、リーマンショック後の航空需要の急減に全く対処できなかったというところが、窮境の原因と言えるのではないでしょうか。よく、「脆弱な財務体質」が経営悪化を深刻化させたというコメントがありますが、「財務体質」は結果であって原因ではありません。あくまで原因は、収益環境の急変に耐えられるような柔軟なコスト構造への改革が迅速に進められなかったことにあると思われます。

JAL再生のためのスキーム
 
現在生きている事業を救う」ということを最優先に考えるとすれば、本来一番良い再生のスキームは、法的整理(民事再生法よりも、全ての担保権等実行なども阻止できるDIP型会社更生法あたりが最適でしょうか)を活用して、複雑な利害関係をリセットしてしまうのが良いのかもしれません。
 ただし、現段階でこの手法を使えば、過去の経営危機時に、政府の指導で出資をしている金融機関や取引先等を初めとする利害関係者の理解は得られないでしょうし、ライバルのANAが黙っていないでしょう。そうなると、現在JALが考えているような「外資提携等による再資本注入→これを原資とする再リストラによる抜本的なコスト削減→航空需要の回復までひたすらローコストオペレーションで乗り切る」というシナリオが、一番利害関係者への被害を最小限に抑えられる方法なのかもしれません。

事業再生の可能性

 以下のIATAの調査によれば、世界の航空需要は、いずれ回復することが予想されています(下図はANAのIR資料より抜粋)。特に、アジアの航空需要については、中長期的に見れば更なる拡大が予想されているようです。

世界の航空需要予測


 航空産業は、新たな発着枠の確保が難しい参入障壁の高い規制業種です。このため、首都圏近郊の地方空港の発着枠などを活用した諸外国の格安航空会社のようなカテゴリーキラーが出てこない限りは、現在、日本国内において最大の国際線発着枠を持つJALの優位性がゆらぐことはないと考えて良いでしょう(この発着枠こそがJALのBSに掲載されていない最大の資産であり、外資各社が虎視眈々と狙いを定めてJALの出資に応じる理由であるといえます)。したがって、次の航空需要の回復期まで、JALが海外のライバル航空会社と遜色のない「ローコスト航空運送会社」として生き残ることができていれば、この需要回復の恩恵を最大限に享受することで、事業再生を果たすことは十分に可能だと個人的には思います。

 それでは最後に、JALを「ナショナル・フラッグ・キャリア」から「ローコスト航空運送会社」に生まれ変わらせるために必要な手順について少し考えてみましょう。

不採算路線の廃止・減便と事業コスト削減
 
航空運送事業面においてまず最優先で実行すべきなのは、やはり不採算路線の廃止、減便(コードシェア等を含む)でしょう。
 まず、国際線については、下記の方面別データの開示しかないのが残念ではありますが、東南アジア、オセアニア、中国方面の稼働率が相当に低いようです。この中でも特に稼働率の低い便(関西空港や中部国際空港発着のものが多いかもしれません)は、即刻撤退するなり、提携他社とのコードシェア便に切り替えるべきでしょう。この際、地元への配慮などを気にしている場合ではありません。
国際線方面別稼働率

 次に国内線についてですが、こちらは路線別の開示がありました。データを集計すると定期運行便(サンプル数162便)のうち、2008年の年間提供可能座席数が400,000席以下の小規模路線が約7割(棒グラフ左端116便、累積比率は茶色折れ線)を占めており、仮にこれを全部削ったとしても、現状の年間利用客数は全体の2割程度しか減少しません(利用可能座席数クラス別の利用客数累積比率は下図緑の折れ線)。すなわち、純粋に収益貢献度だけを考えれば116便の小規模路線の大多数は廃止した方が良いということになってしまうかもしれません。

座席クラス別分布と累積比率

 次の図は、路線別の提供可能座席数(X軸)稼働率(Y軸)のデータをプロットしたものです。いわゆる大規模旅客機を使用した高頻度発着のドル箱路線は、「羽田-札幌」「羽田-福岡」「羽田-伊丹」「羽田-那覇」の4路線しかないことがわかります。
国内線提供座席数×稼働率

 上図のうち、「明らかに不採算路線」と思われる赤枠路線だけを拡大表示したのが次の図です。いわゆる地方空港から地方空港への路線が多いことがわかります。空港を作りすぎたせいでしょうか、思っていた以上に不採算路線数が多い印象を受けます。JALの経営改善のためには、これらの路線も即刻廃止したいところですが、地域の重要なインフラ路線となっているために、今まで止めるに止められなかった路線も多く含まれているのでしょう。これらの路線も原則廃止、生活インフラ路線だけは、ANAの便も含めて必要最低限の補助金支援を国と自治体が行うというのが良いのかもしれません。
国内不採算路線

 不採算の国際線、国内線の定期路線を大胆に廃止なりコードシェアに切り替えることができれば、従業員にかなりの余剰感が出るように思います。このうち、育成に莫大なコストがかかるパイロットに関しては、若手を積極的に登用することで、人件費の高いベテランの引退を早めて欲しい気がします。また、今後のパイロットの補充に関しても、受入賃金水準をできる限り引き下げて、積極的に人件費の安い外国人を採用してもらいたいところです。なお、比較的代替可能性の高いと思われる客室乗務員等は、やはりある程度の削減はやむを得ないでしょう。この職種は未だ女性からの人気は高いようですから、賃金を引き下げても新たな応募者はいるでしょう。
 定期路線に廃止に伴い発生する余剰航空機に関しても、燃費が高く老朽化したものから順に積極的な除売却を行ってリストラ原資、返済原資にあててもらいたいところです。

間接コストの大幅削減
 
地域に傷みを強いる路線の廃止・減便と同時に進めるべきなのが、間接コストの更なる削減です。特に航空運送事業に関わらない部署は、全てゼロベースで見直しをかけて、血のにじむようなリストラを断行しない限り、厳しいようですが、本来とっくに倒産しているはずの企業を資金面で支える政府(その裏にいる納税者)、株主、債権者の合意を得られないでしょう。間接部門の大幅人員削減や、海外拠点の統廃合、高コストな駐在員の帰任を進めるのは当然のこととして、ホテルや旅行事業なども本当にJALグループでやる必要があるのか、再度検討が必要であると思われます。キーワードは、「JALを普通の運送会社にすること」でしょうか。

 上記の他、低燃費航空機への更新投資、海外航空会社との業務提携強化など、優先順位付けをした上でやるべきことは多数あると思います。詳細は、JALの新しい経営再建計画の発表を待つことにしましょう。方向的にはこれまで記述してきた内容とそれほどずれていないはずです。

おわりに
 全5回にわたり、JALの開示資料を用いた机上分析を行ってきました。現場の事業再生実務においても、開示資料がある場合には、それを予め十分に熟読し、ある程度の仮説を立てた上で現場に乗り込むことは必須です。今回の一連の分析により、「開示資料だけでも企業の経営状態についてここまでは読み取れるのか」ということを読者の皆様に少しでも実感して頂けたのであれば幸いです。最後までお読みいただき、ありがとうございました。

 一連の分析記事内容に関する皆様のご意見、ご感想をコメント欄にて募集しております。また、時間があるときに、このような分析も続けていきたいと思いますので、ご興味のある方はRSS登録なりブックマークなりをお願い致します。

| cpainvestor | 01:03 | comments(5) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment
cpainvestorさんの本領発揮のコラム、ほうほう!と読ませていただきました。また、熟読して分析技術を磨きたいと思います。

体質改善が急務であることは確かですが、実はJAL子の私としては、一部の方には(ない、といわれていますがそれでも)JALの品格は失って欲しく無いなぁと思っています。
それがなくなれば【ただの航空会社】だからです。

地方〜地方の路線は、JAS合併時(JASもそうでしたけど)整理ができていなかったことが重いのでは?(静岡ー福岡のように、最近の意味わからない地方空港開港ラッシュ?に【付き合わされた】のではないかとも思います。踏み込むポイントはまだまだありそうですね。

ありがとうございました。

◆rita◆
Posted by: rita |at: 2009/09/16 5:53 AM
rita様

いつもコメントありがとうございます。このようなコメントが私の書き続けるインセンティブになります。

「JALの品格」っていつの頃まであったんでしょうね。むしろこの品格が逆方向に左右しているような気がしてなりません。

私はどんなサービスも「アンチガリバー企業」なので、当然ANA子ですし、携帯はAUです。

Posted by: cpainvestor |at: 2009/09/17 8:33 PM
【アンチ】ですか。。。。

JALの品格が高コスト体質を招いた?品格を保ちつつも越すをと抑える方策はあったのでは無いかとぼんやり思います。
(いま、品格は下がっているかも?)

ANAが国際線で上手く飛ぶようになったのって結構最近だし、いま、ANAが国内路線も整理しようとしてますけど、ANAのよさがなくならないか心配です。

・・・飛行機は結構長い時間をすごすので、欧州線にアメニティや、色々が決定的に少なかったANAはあんまり好きになれないんですよね…。その内容だったら10年前のオリンピック航空でも同じだなとか思ってしまって。

おねーちゃんがかわいいだけじゃねー。。。

とはいえ、このBlog、昨年受講者にリマインドしておきました。何人が見てくれるでしょうか。

◆rita◆
Posted by: rita |at: 2009/09/19 3:35 PM
cpainvestor様
 いつも楽しく読ましてもらってます。はじめてコメント書きます。国策企業の宿命とは・・この分析まさに脱帽する次第です。利害関係者が多すぎるってことはシガラミの中で走り続けてることなんでしょうね。かつての日産のようにJALの復活劇を期待してやみません。
Posted by: samurai |at: 2009/09/25 11:53 AM
samurai様

コメントありがとうございます。
このようなコメントが私を元気づけます(笑)。

JALの経営はますます予断を許さない状況になっていますね。正直「本業の方でこの会社の再生業務に関われるチャンスがないかなあ」と期待していたのですが、どうやら競合他社にさらわれたようです。

私自身、マスコミの2次情報を鵜呑みにするのではなく、自分で開示資料を読み解く重要性を再認識させられた次第です。

今後とも継続的なご愛顧をお願い致します。

Posted by: cpainvestor |at: 2009/09/25 8:49 PM








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