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高品質・高付加価値化という袋小路


 連休中、昼は息子達の遊び相手に専念しましたが、夜は少し時間があったので、久しぶりに紙の会社四季報を購入して、個別会社の業績推移などを丹念に見ていました。

 その中で、かつてのウォッチ銘柄で、国内メガネ業界のNo.1企業、三城ホールディングス(7455、以下三城と表記します)の業績のあまりの凋落ぶりに驚き、少しこの業界について調べてみました。

 以下は、メガネ業界のNo.1の三城とNo.2メガネトップの業績推移です。ちなみに三城は、元TBSアナの進藤晶子さんを使った「パリミキ」、メガネトップはヨン様を使った「眼鏡市場」というブランド名で店舗展開をしています。

メガネ2強業績推移

 一見してわかるように、両社の業績ベクトルは真逆です。
 5年前は小売業界トップクラスの経常利益率(15.6%)を誇った三城は、つるべ落としのように業績を悪化させ、09/3期には赤字転落しています。一方、5年前にはたいした利益をあげていなかったメガネトップは、09/3期において11.6%の経常利益率を達成しており、完全に立場逆転です。まさに、「ヨン様恐るべし」です。

 この5年間にメガネのマーケットではどのようなことが起きていたのでしょうか。以下は、愛眼(9854)の決算説明資料より転載した国内メガネ小売市場規模の推移です。途中でデータソースが変わっているので、そのまま信じることはできませんが、6年間で17%以上という、ものすごいスピードでマーケットが縮んでいることがわかります。

メガネ市場規模推移

 次は同じく愛眼の決算説明資料から転載した国内のメガネ小売チェーン各社の店舗数推移です。毎期順調に店舗数を増やしてきたのは、メガネトップだけであることがわかります。特に直近の半期は、業界各社が次々と不採算店舗の閉鎖に追い込まれている中、メガネトップだけが大量出店を継続しており、まさに「独り勝ち」の状況です。
店舗数推移
 
 メガネ業界は、1993年にインターメスティックという会社が「ZOFF」というブランドで「メガネ一式5250円、7350円、9450円」という低価格業態を出店して以来、徹底した価格破壊が進みました。日本でデザインだけを行い、中国の契約工場で安いフレームとレンズを大量生産するという「メガネ版ユニクロ」といっても良い革新的なビジネスモデルの出現です。これに追随し、「メガネ一式18,900円ポッキリ」という分かりやすい低価格ワンプライス業態「眼鏡市場」を開発、地価の安いロードサイドにフランチャイズを含めて素早く展開したのがメガネトップです。「ZOFF」というカテゴリーキラーの出現を、市場が大きく変化する兆し(メガネは一つを長く使い続けるもの→メガネは場面に応じて使い分けるもの)と捉え、いち早くこの低価格業態に集中するという決断をした、業界弱者ならではの戦略転換の勝利と言えるでしょう。

 これに比べて、三城は「ZOFF」の出現を「低品質の安物を売る異端者が市場を荒らしている程度で、いずれ駆逐される」とでも考えたのでしょうか、この業態に本格的に参入することはありませんでした。これは業界最大手として、現に高収益を享受している企業としては、当然の対応かもしれません。「三城の顧客は、高い品質とサービスを求めており、そのために高単価を受け入れてくれている。彼らのニーズを満たすことこそが、自分達の生きる道だ」と考え、自分の顔にジャストフィットしたデザイナーズメガネがリーズナブルな値段で手に入る「ミキデザインシステム」の開発を進めます。いわゆる高品質化、高付加価値化へのシフトです。

 しかしながら、業界の価格破壊は続き、「高品質、高付加価値メガネの市場」はどんどん萎みました。結果、三城は現在、袋小路に追いつめられ、大量の不採算店舗の閉鎖を余儀なくされています。

 この「高品質・高付加価値化の袋小路にはまる」というのは業界の強者企業がよく陥りがちな罠であるといえます。この「競争力を強化するため、既存の優良顧客のニーズをとことん聞いているうちに、市場の構造変化に乗り遅れる」という矛盾は、「イノベーションのジレンマ」とも呼ばれ、下記のクリステンセン教授の著書に詳しいです。投資家としては、「高収益の業界トップ企業だからといって安心してバイ&ホールドをして良いわけではない」という教訓を肝に銘じ、常に市場の変化に敏感でありたいものです。

                         

 

 

| cpainvestor | 19:40 | comments(10) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment
cpainvestor様

実は三城は自分もずいぶん前に一時注目をしていました。営業利益率の高い企業をスクリーニングして出てきたのがウォッチのキッカケですが、メガネごときで営業利益率10%越え?!とかなり印象深かったです。

メガネ屋で働く友人に三城ってやけに儲かってるみたいなんだけどどんな会社?と聞いたところ、書かれている通り、高い商品を扱ってるお店だ、との事でした。
まさかこんなことになっているとは。。
通常は店舗で注文を受けて加工→数日後に引渡しという流れでしょうから、そういった一般的な飲食業のような効率の悪い業態で10%超えはある意味で驚異ですが、歯車が逆回転した時の落ち込みぶりも非常に大きいかと思います。人を減らすと売上を逃す、人を維持すると人件費がかさむ、といったジレンマに陥っていたのでは?とも推測されます。

ちなみに友人が働く眼鏡屋は格安でも高級でもなく、ミドルクラスとの事ですが、最近はヒマでヒマで仕方ないようです。年齢は20代後半ですが、給料は新卒で入った頃より下がっているとの事。業界全体の凋落が給料にも反映されているようです。

前回のコメントに頂いた返答にもありましたが、本当に値引きにしか反応がないですね。景気の良い話も、大抵は安売り・値引きに関するモノです。
一昔前にはメガネ一式5000円でビックリしていましたが、最近ではネットで2480円、近所のメガネ屋で3480円と言うのが自分の見た最安値です。

自分が商売を始めてから初めての不景気なため、ある意味で良い勉強になっていますが、ブランド価値が剥げ落ちる、という事の意味を日々実感しています。
付加価値の最上級がブランドだと思っていましたが、そんなわけではないのだな、と思い直しています。
ちなみに前回コメントで書いたガラガラの百貨店は紳士服の高級ブランドのフロアの話です。

先日経済ニュースで見た話では、銀座にユニクロ・H&M・アオヤマ等の低価格ショップが進出したために雰囲気が変わり、ブルックスブラザーズのような高級ブランドが撤退を決めたというモノがありました。
これが不況の象徴となるのか、カクテルパーティで言うところの行き過ぎた状況と言えるのか、なんとも微妙な印象です。

イノベーションのジレンマ、興味深いですね。現状で勝つ事だけでなく、次代で負けない事にも注力すべき、品質とコストのトレードオフを意識すべし、勝つことよりも生き延びることを考えろ、といった戒めでしょうか。ブルーオーシャン的な発想も含まれていますね。
さっそく購入候補に入れておきたいと思います^^。 長々と失礼。。。


Posted by: ny |at: 2009/09/26 4:57 AM
cpainvestor様

はじめまして。

chikirinさんのブログからこちらのブログを拝見しました。
非常にわかりやすい分析、あっぱれです。更に今回の記事であれば一企業だけではなく、眼鏡業界全体の変動にも触れられていて、大変勉強になります。
またちょくちょくお邪魔させていただきます。
Posted by: cuppuc |at: 2009/09/26 8:34 AM
ny様

メガネ屋さんの友人からの情報、ありがとうございます。

私も、中学生の頃からメガネにはお世話になっていたので、常日頃から、「メガネ屋さんは商店街の他のお店と違って正社員がなぜこんなにたくさんいるのかなあ。」と不思議に思っておりました。

価格破壊前は、メガネ屋はかなりおいしい商売だったように思います。こういうところは、昨今、狙われやすいですよね。

商店街のお店シリーズでは、個人経営に近い不動産屋もそろそろ苦しくなるのではないかと思います。
売り手買い手の双方から仲介料をもらうモデルが崩れるのは、時間の問題なのではないでしょうか。

その意味で、生き残りそうな価格破壊不動産チェーンにも注目していきたいと思います。

Posted by: cpainvestor |at: 2009/09/28 12:54 AM
cuppuc様

ご訪問ありがとうございます。
chikirinさんのブログの質、更新頻度には遠く及びませんが、細々と続けております。

今後ともご訪問、ご友人へのクチコミをよろしくお願い致します。
Posted by: cpainvestor |at: 2009/09/28 12:56 AM
5月の関西以来、ご無沙汰しております、ひろです。めがねといえば、最近JIN(3046)に投資をしていますが、どう思われますか?詳しく説明する必要はないと思いますので、お時間があるときにでも調べてみていただけたらと思います。CPAさんのお考えにも沿った有力な投資先かなあと思うのですが。。。。
Posted by: ひろ |at: 2009/10/09 12:04 AM
ひろ先生

 こちらこそ、ご無沙汰しております。ひろ先生からもっと投資スキルを学びたいと思いつつも、家族の事情からなかなか時間がとれないでいます。

 さて、ご提示のあった3046ですが、確かにリカバリーストックとして面白い局面にありそうですね。メガネトップが5年前やった意思決定と同じようなことを、やったようですね。ワンプライス業態がずっと軌道に乗るかは別として、短期では面白いかもしれませんね。

 それから、私はひろさんがウォッチしている北陸のドラックストアの方も面白そうだなと思っております。一度店舗ウォッチに出かけたいくらいです(笑)。

このような銘柄に目をつけるあたり、本当によく研究されていますね。脱帽です。


Posted by: cpainvestor |at: 2009/10/10 2:03 AM
ご返事、ありがとうございます。私の方こそ、CPA様から投資はもちろん、他についても(「理解 → 同感 → 共感」がタイトルの記事は大変勉強になりました。)勉強させていただきたいと考えております。
JINについては、簡単で拙くでありますが、解説をブログに掲載いたしました。批判、反論等がありましたらコメントいただけたら、と思います。

はい、リカバリーストック狙いです。リターンが高いですから。レッドオーシャンなので、長期では眼鏡銘柄はとても持つ気にはなれません。

店舗にまで視察に行かれているとは....。株価は私が買っているのでよこばいのままですけど(笑)
Posted by: ひろ |at: 2009/10/10 9:29 PM
ひろ様

JINへの投資、きちんと結果を出されているようで、さすがですね。

私は職業制約上、日本株投資には同乗できなくなっているところが、つらいところでございます。はい。

また、お会いできるのを楽しみにしております。
Posted by: cpainvestor |at: 2009/10/19 12:07 AM
最近では、スーツも20000円あれば、買える。めがねも6000円あればよい。そりゃ、金持ち相手の店が
弱ってくるわけだ。
Posted by: ユニクロ化 |at: 2009/10/27 2:35 PM
ユニクロ化様

最近のスーツの値札には、本当に驚きますね。「今までのプライシングはいったいなんだったのか」と思うほどの安値を提示しています。

しかも百貨店にはるやま商事が入る時代です。

もう、わけがわかりません。
Posted by: cpainvestor |at: 2009/10/28 1:33 AM








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