
不況の深刻化で、以前にも増してモノやサービスが売りにくくなっていることは、景況感に敏感な投資家の皆さんはもちろん、経営や営業の現場にいらっしゃる方々全てが実感されているのではないでしょうか。こうした状況を打開すべく、いくつもの企業が、前回コラムで分析したメガネのマーケットではありませんが、「そこそこ品質の良いものを値下げして大量に売るオペレーション」を確立することで、売上を確保する方向に動いている気がします。
しかしながら、コメント欄でnyさんが指摘してくれているように、値下げは麻薬的な要素を持っているのもまた事実です。「薄利多売」は、「多売」をコンスタントに維持することができて初めて成立するため、一時期の消費者の「驚き」が剥げ落ちたり、競合他社が値下げで応戦したりすることで売れ行きが鈍ると、「薄利」にしてしまった分、以前にもまして経営は苦しくなり、更なる値下げ競争のスパイラルに陥る例も少なくありません。
私が携わるBtoBの専門サービス業においても、人員の稼働率商売のようなところがあるため、競合他社のサービスの値下げ情報は多く耳にしますし、同一サービスへの投入人員の増やすことによる実質的な値引きは業界全体で横行しているように思います。
また、通常業務の傍ら、日々顧客訪問も続けている身としては、顧客の要求するサービスレベルが格段に上がり、特定分野におけるこれまでの実績を聞かれることが多くなったことを実感します。より端的に言えば、若手スタッフを大量投入できるような単純な調査業務などは減少し、「当社の経営改善策を、あなた自身が我々と共に考え、提案・実行支援をして欲しい」系の難しい仕事だけが残っている感じです(泣)。
最近、以下の書籍がきっかけで、「インサイト」という新しいマーケティング用語を知りました。「インサイト」というのは、「時には消費者自身も気付いていないような潜在ニーズをうまくくみ上げることで生まれる、顧客に行動を促すような心のホット・ボタン」のことを言うそうです。
リクルートが仕掛けたターミナル駅配布型の無料情報誌「R25」を手に取ったことのあるブログ読者の皆さんも多いのではないでしょうか。私も最初は「スポンサーの提灯記事やクーポンだらけの無料情報誌かな?」ぐらいに考えていましたが、実際に手にとってみると、意外に読み応えのある分かりやすい解説記事や、面白いコラムが多く、「若い男性が手持ち無沙汰な時の暇つぶしグッズには持ってこいだな」と思ったことを覚えています。実際、「R25」は、 このご時勢に50万部以上がコンスタントに出るお化け雑誌に成長しています。
今日1冊目に紹介する書籍、藤井大輔著「R25のつくりかた(上図左)」は、この雑誌が誕生するまでの秘話が、元編集責任者である藤井氏の手により書かれていて、とても面白く読めました。当初は、「新聞や雑誌もロクに読まず、駅のティッシュ配りすら手を出さない若手男性世代(M1世代)向けの無料情報誌など成功するはずがない」と、立ち上げを任された藤井氏自身が思っていたそうです。ただ、そもそもこの企画をリクルート社内のコンテストに提出した若手スタッフから、「活字を読まず、誰も成功するはずがないと思っているM1世代向けのマス雑誌だからこそ、大きな潜在可能性があり、作る価値があるのでは」と説得され、「失敗してもともと、誰もやっていないことに挑戦するチャンスが巡ってくるなんて、そうそうあるもんじゃない」と思い直して、チャレンジすることにしたというのです。
この書籍の中で繰り返し語られているのは、「M1層はリサーチをかけても、簡単に本音を語ってくれない」ということを前提に企画が練り上げられていったということです。
そのために、毎号毎号、「リサーチ結果の奥に眠るM1世代の本音は何なのか?」を、企画編集のブレストで徹底して議論しています。「リサーチ結果を鵜呑みにしない」を旗印にこの手の企画会議を素人がやると、とかく声の大きいアイデアマンなり、上席者の意見が通りがちになったりします。このあたりの「企画会議の罠」に陥るのを回避すべく、著者は様々な仕掛けを会議にとりいれたそうですが、そのあたりの工夫は、著書をお読みになって確認された方が良いかと思います。
著者の藤井氏がR25の立ち上げの中で貫いてきたマーケットイン思考は、まさに「インサイト」と呼べるものなのでしょうが、「単なる思いつきが当たった」だけなのか、「インサイトを見つけた」のかを区別するのは、素人にはなかなか難しいものがあります。
そこで、本日2冊目に紹介する書籍、桶谷功著「インサイト(上図右)」を読んでみました。こちらの方は、高級プレミアムアイスクリームの市場を創った「ハーゲンダッツ」や、刃が横滑りしても肌を切らない「キレてなーい」のキャッチコピーで爆発的に売れたシックの安全剃刀の例を使って、この「インサイト」という概念について、もう少し一般化して書かれていました。いずれの事例も著者自身が実務で携わったプロジェクトだけあって、経営学者などが整理したものより、ずっと具体的で読みやすく、「インサイト」の重要性を改めて認識させられました。
この本には、「インサイトの見つけ方・活かし方」という章もあり、「R25のつくりかた」を読んだ時よりは、その本質が理解できたようにも思います。ただ、このインサイトという概念を自分の実務の中でどう生かし、不況を打開するような「新サービス」の開発プロセスに落とし込むかは、未だイメージできておりません。この本に記載されていた「インサイトを見つけるためのスイッチ(以下に転載)」を参考に、自分なりにもう少し考えてみたいと思っています。
<インサイトを見つけるためのスイッチ>
準備編:アタマと気持ちをほぐす
○ リラックスする
○ 客観・理屈を捨てる
○ ゲーム感覚を持つ
○ 消費者に戻る
実践編:カラダと五感を使って体験してみる
○ ターゲットになりきって使ってみる
○ 売り場に行って買ってみる
○ ターゲットの集まる街に行く
○ トレンドを体験する
○ 関係ないジャンルの共通項を探る
○ 身近な人に聞く
今日、ご紹介した2冊は、普段マーケティングから縁遠い職種の方々、日々、商品・サービスの売れ行きに悩んでいる方々に、よりオススメしたいと思います。普段気付かなかった新たな示唆をいくつか得られるのではないかと思います。
追伸
今日の写真は、連休中に子供達とお弁当を持って出かけた、近隣の野山のコスモス畑です。もうすっかり秋ですね。
1000円カッットのQBハウスのおかげ(せい?)で業界全体の客単価が下がったように思います。
どの業界でも、利益を削った値引きだけでは長続きは厳しいですよね。ユニクロのように、最初から安く売ることを前提に組み立てたビジネスに付け焼刃の値引きだけで対抗する事は出来ないと思います。
状況が劇的に変化する瞬間をティッピングポイントなどと言うそうです。サイゼリアの社長は7割引にしたら客が雪崩を打ってお店に来て行列を作った、と話していました。
メガネの5000円、床屋の1000円、サイゼリヤの7割引はこれにあるのかな?と思います。
値引きで客の行動が変わりそうな業界は、紳士スーツでしょうかね。2プライス系のお店も劇的に安い、という感じではありませんでした。1万円以下でビジネスで使って問題無いしっかりしたスーツが出れば、かなり売れそうに思います。(相当厳しいと思いますが)利益は有料のスソアゲやシャツ・ネクタイの併売で稼ぐといったイメージです。
個人的には値引き・安売り以外でインサイトをどうにか見つけたいモノですね^^。
上手く行くかは分かりませんが。そっちの方が楽しそうに思います(笑)
いつもコメントありがとうございます。
おっしゃるように理容業界も価格破壊マーケットの一つですね。昨今のデフレ傾向なども考えると、これからも粗利益の高い業界ほど、このような価格破壊が起こる流れは変わらないのではないかと思います。
それにしても理容業界の価格破壊モデルの出現に関しては、大前研一氏が「企業参謀」の中で30年以上も前に指摘していたことは、慧眼だと改めて思います。
ユニクロ、ニトリ、眼鏡市場、QBハウス、次に来るのは何でしょうね。
ファーストリテーリングしかり、西友しかりという感じがします。
「そこそこ品質低価格」完全に今のトレンドはこれですね。




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