最近、ビジネス系雑誌などでも国際会計基準(以下IFRSとする)特集が組まれるようになり、大分注目度が高まってまいりました。今後は、このブログでも、IFRSという新しいカテゴリーを設け、時折、IFRSがらみのコラムも記載していきたいと思います。なお、あらかじめお断りしておきますが、専門家として情報の正確性の担保するべく最善の努力はしますが、あくまで私的ブログですので、その内容を鵜呑みにせず、必要に応じて必ず原典(英文、メールアドレス等登録すると見れます)をあたるようにして下さい。
今回とりあげたいのは、国際会計基準委員会(IASB)と米国財務会計基準審議会(FASB)が議論している「財務諸表の新様式」です。2008年10月に公表されたディスカッションペーパー「財務諸表の表示に関する予備的見解(リンク先は和訳)」(以下DPとする)にて新しい財務三表の様式が提案されています。
「百聞は一見にしかず」ということで、まずはこのDPに記載されている財務三表の新様式をご覧頂きましょう。
財政状態計算書(これまでのBSに相当)
包括利益計算書(これまでのPLに相当)
キャッシュ・フロー計算書(直接法によるCF計算書に相当)
これまでの財務三表を見慣れている経理担当者や個人投資家の皆さんから、「なんだかわかりにくいなあ」という声が聞こえてきそうです。また、世の上場会社様からは、「また内部統制の時みたいに制度を複雑に変更して業界の人間が儲けることをたくらんでいるでしょう?」とつっこまれてしまいそうな、大きな変更です。
私がこの財務諸表を初めて見て受けた印象は、「税金計算のための帳簿付けの会計を完全に脱却して、投資家のための会計を本気でやるつもりだな」というものでした。以下のように財務三表をこの表示コンセプトに基づき整理してみると、この表示形式の意図がより顕著に見えてきます。
このように活動の性質別に整理された財務諸表を使うと、DCF法による企業価値評価などの際は、数字がとても拾いやすくなります。特に異常値(非継続事業)控除が過去に遡ってなされるようになると(財務諸表がリステイトされるといいます)、継続事業の損益水準の将来予測もしやすくなります。また、キャッシュ・フローなども直接法(収入から支出を控除する形式)で表示されるようになると、資金繰りがよりリアルに見えるようになり、マニアな投資家の皆さまにとっては、大変ありがたい代物になるのではないでしょうか。
ただ、財務諸表作成者側の負担は、相当重くなりますね。IFRSの適用で、ただでさえ注記情報が多くなって難儀するのに、このような大胆な表示科目の組替えのためには、資産・負債の勘定科目明細それぞれに営業・投資などの紐付けまで行わなくてはならなくなりますから、そのコード体系の整理だけでもかなりの作業になります。
また、キャッシュ・フローを直接法で作成するとなると、現行の会計システムだけで対応するのは至難の業です。また、簿記を3級、2級と学んで「数字を締める」ということに特化した、あまり「投資マインド」をお持ちでない経理担当者にとっては、厄介物以外の何物でもないでしょう。「なぜこのような表示形式に手間暇をかけて組み替えるのか。これまで簿記で学んできたものとは、全然違うし、試算表ベースで貸借合致をすぐに確認できないことにでもなれば、検算しにくくてしょうがない。」とかクレームが多数出そうです。
この財務諸表表示、利用者である投資家と飯の種になる会計士、情報システム会社、開示書類印刷会社、会計専門書出版社などには、ありがたいかもしれませんが、各国で本当にすんなりと導入されるかどうか。今後の国際会計基準委員会(IASB)での議論の動向が見ものです。
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