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世界経済の破綻に賭けた逆張り投資家達


 マイケル・ルイスの新作「世紀の空売り 」(原題:THE BIG SHORT Inside the doomsday machine)を読みました。
 世間が好景気に浮かれ、誰も経済危機が起きるなどと考えていなかった時分から、サブプライムローン証券化の問題点を見抜き、関連債券をショートし続けていた3組の投資家に焦点を当て、彼らの視点から、サブプライムモーゲージ市場のバブルの発生、拡大、破綻の過程を詳述した小説です。

 サブプライムバブルの最も初期の段階で、格付け会社の情報を鵜呑みにせず、サブプライムモーゲージ債券に関する膨大な目論見書を読み込んで、その中に組み込まれているローン債務者の質の悪さに気付いたのがマイケル・バーリという医師出身のファンドマネージャーです。2005年5月、彼は当時の基準で見てとびきり質が悪いと思われるサブプライムモーゲージ債券を抽出して、そのクレジット・デフォルト・スワップ(CDS:一定の手数料と引き換えに原債券のデフォルトリスクをカバーしてくれる保険契約のようなもの、当然ながら原債券の値段が暴落すれば、価値が上昇する)を購入しました。この方、アスペルガー症候群という障害を抱え、ヒトとのコミュニケーションは大の苦手だったらしいですが、頭脳明晰な上に投資情報の研究は大好きで、その投資センスはずば抜けていたようです。医者に嫌気がさして自分のヘッジファンドをはじめた時には、(バリュー投資家には有名な)グリーブラッドから出資のオファーを受けており、実際にこれを元手にプロ投資家として運用を始めています。
 マイケル・バーリは、サブプライム危機を迎えるまで、3年近くサブプライムモーゲージ債券のCDSを買い増し、多額の手数料を払い続けました。この間、ファンドの出資者からは、「これ以上、サブプライムモーゲージ債券のCDSを持ち続けるなら、資金を解約する」と何度も脅され、実際に解約が相次いだ後も、自らのファンドの従業員を解雇してコスト削減をしながら、このCDSを持ち続け、最後には市場の暴落で巨万の富を得ています。

 2人目は、本来住宅が買えそうもない所得層までが住宅を購入してしまっている販売現場の状況に警戒感を抱き、住宅バブル崩壊のリスクに備えて、住宅・建設株を空売りしていたスティーブ・アイズマンとその同士です(フロントポイントパートナーズ)。彼らはドイツ銀行からのサブプライムモーゲージ債券のCDSの売り込みを機に、サブプライムローンの中身に注目し始めました。調査の過程で、これらの債券に組み込まれた無審査ローンの割合が極めて大きいことに着目し、これが各地でデフォルトし始めている現状を実地で確かめた上で、CDSの購入に踏み切りました。これはCDSの購入を住宅・建設株の空売りより、ずっと条件の良い投資であると判断したためでした。その後、ローン債務者のデフォルト率の高まり、住宅価格上昇の停滞といった報道が出るたびに、CDSを買い増ししていき、最後はうまく売り抜けています。

 3人目は、優柔不断なアマチュア投資家ながら、デリバティブの価格決定の不合理性(釣鐘型の確率分布を前提にしているせいで、起こりそうもないリスクが現実に起きた場合のリスクがより過小に評価される傾向がある、このあたりの問題は、ブラックスワンという書籍が詳しいです)に着目して大穴狙いの投資にかけたジェイミー・マイとチャーリー・レドリー(コーンウォール・キャピタル)です。彼らはその弱小な資金力から最初は投資銀行のトレーディング・デスクから相手にされず、電話をかけまくってたまたまひっかかったドイツ銀行との取引を突破口に大穴狙いでCDSを買い集めます。
 2007年半ば以降のサブプライム危機顕在化で彼らのCDSはお宝に化けたわけですが、取引相手の7割がベア・スターンズで、弱小ファンドの弱みから、彼らから担保をとれていませんでした。このため、もし仮にベア・スターンズが破綻することになれば、そのプラチナチケットが紙切れになるというリスクがありました。2007年8月、サブプライム危機が深刻化する中で、彼らはこのリスクをいち早く認識し、無事その大半の持ち高をUBSに売り抜けます。

 「ライアーズ・ポーカー 」でウォール街や投資銀行の暗部を暴いたマイケル・ルイスが、サブプライム危機で売りに回った投資家の視点から描いた「バブルの真相」は非常に面白く、学びも多い一冊でした。この小説から、マイノリティの孤独と恐怖に耐えながら、「市場価格の歪みはいつか解消される、インチキはいつか暴かれる」と信じてポジションを張り続ける逆張り投資家の真骨頂を垣間見ることができます。

 専門用語もかなり多いため、一般の方にはオススメしませんが、金融・財務関連のお仕事を生業とする関係者、及び投資家の皆様には、「楽しみながら教訓を学べるマニア向けの一冊」かと思いますので、よろしければどうぞ。

 マイケル・ルイスの著作はどれも面白いので、金融・投資マニアではない皆様には下記の書籍の方をお勧めしておきます。

    

| cpainvestor | 23:46 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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