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ムダの効用


 先週は地方出張がありましたので、だいぶ書籍が読めました。面白かったものを、自分自身への備忘録を兼ねて紹介します。

働かないアリの意義
 1冊目はwww9945さんオススメの長谷川英祐著「働かないアリに意義がある」です。この著者は、アリやハチなど、繁殖・労働といった分業が進んだ個体同士が集団を作って暮らす昆虫(真社会性生物というそうです)を専門に研究している生物学者だそうです。この方が取り組んだ有名な実験は、いわゆる「80:20の法則」がアリの世界にも存在することを発見したものです。
 野外のアリの巣(コロニー)から採取した1匹の女王アリと150匹の働きアリから成る実験コロニーを作って、個体識別できるようにマーキングして1ヶ月間もその行動を観察し、かなりよく働くアリからほとんど働かないアリまで、集団内の労働頻度の分布にかなりバラツキがあることを発見しました。次に、この中からよく働くアリ30匹と働かないアリ30匹をそれぞれ区分してグループを作り、これに女王アリを加えてその行動を観察したところ、やはり一部のよく働くアリとほとんど働かないアリが生じ、最初のコロニーと同じような労働頻度の分布を示す集団になったとのことでした。
 重要なのは、「どうしてこのようなことが起こるのか?」ということであるわけですが、生物学者の中での共通理解は、「反応閾値が異なる個体を組み合わせることが、コロニー全体の存続可能性を高めるのに役立っている」ということらしいです。
 ここで反応閾値とは、「段階的な外的刺激に対する反応の感度」のようなものでしょうか。人間にも、少し部屋が散らかって、すぐに我慢ならなくなって掃除にとりかかる人と、部屋が散らかっても、実際の自分の生活に支障が出るまでほとんど掃除をしない人がいます。これと同じように、アリやハチの世界でも、個々の生体によって外部環境に対する反応閾値が異なるので、すぐに働くものと、周りに働くものがいなくなってようやく働きだすものがいるということです。リーダーによる指揮命令系統がない真社会性生物の世界においては、反応閾値が異なる生体がバランス良く組み合わさっていることで、環境がどのように変化しても、常に予備労働力を確保しつつ、集団の一定割合の労働が自律的に維持され、このことがコロニー全体の存続可能性(継続性)を高めているということが、いくつかの実験から証明されているそうです。
 まさに、「働かないアリ」は、ここぞという時の集団全体のバッファーとして、変化適応能力の向上に貢献しているということなのでしょう。この本には、「よくこんな調査を地道にやったなあ」と感心するような面白い実験が他にもたくさん紹介されています。しかも、書籍の最後は、「何に役立つかはすぐにわからないアリやハチの生態を地道に研究している自分達にも価値がある」というような趣旨のメッセージでしめくくられており、思わず笑いました。移動時間などの気分転換にオススメの1冊かと思います。

ボトルネック工程にあるムダの意義
 
2冊目は、制約理論(TOC)のAGIゴールドラット・インスティチュートから出た最新著作「ザ・ベロシティ」です。こちらはTOCを世界に広めたベストセラー「ザ・ゴール」の続編のような位置づけで、制約理論や、リーン生産方式・シックスシグマといった製造現場で使われている経営コンセプトが小説形式で学べるようになっています。
 工場外部から来たコンサルタントが、頭でっかちな理論に基づいて手当たりしだい現場改善を始めますが、工程別の部分最適をひたすら進めた結果、在庫が膨らみ、キャッシュ・フローはほとんど改善しません。その彼がTOC理論に触れて、はじめてボトルネック工程を意識することの重要性に気づくわけです。ここまでは、ザ・ゴールと同様のパターンではありますが、この本は前作と異なり、ボトルネック工程を改善し続けることだけではなく、あえてボトルネック工程の非効率性を残すことが全体最適に与える効果の重要性を説いています。
 500ページ近くある大著ですが、地方出張から帰る3時間で一気に読んでしまいました。モノヅクリの現場で働く皆さんにはおなじみの内容かとは思いますが、そういう分野に関わりのない方にも、面白く読めるようになっていますので、こちらもよろしければどうぞ。

 あえてムダをつくることの重要性
 今回紹介した2冊は、いずれも「ムダが全体最適に与える効用」というものを説いています。考えてみれば、歯車の噛み合わせにも遊びがあったり、厳しいスケジュールのプロジェクトほど、プロジェクトマネージャーの労働量を抑えて、もっとも重要な一人を余らせるようなスケジューリングを行うことが理想的と言われたりするのも、同じような理由かもしれません。個々人の生活を考えても、労働生産性向上のハウツー本のマネや細切れ時間の活用ばかり考えるのでなく、勤務時間中に恋愛小説や歴史小説を読むぐらいの余裕があった方が、変化適応能力は逆に高まるのかもしれません。

| cpainvestor | 01:01 | comments(0) | trackbacks(0) | pookmark |
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