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まな板の上の鯉のゆくえ(後編)


 生かすも殺すも国次第のまな板の上の鯉(東電)の今後を考える上で、まずは誰もがおおよそ同意できる前提条件について書き出してみましょう。

1. 東電の電力事業そのものが営業停止になる可能性はありえない
 電力事業は経済活動全般に渡るエネルギーインフラですから、たとえ東電が倒産(法的整理)に至っても、一瞬たりとも発電・送電活動を停止することは許されません。従って、どんなシナリオになろうとも、破産・事業停止などは考えられず、一定の発送電設備とその設備の運営する必要最低限度のオペレーターの雇用は維持されるはずです。

2. 国の損害賠償負担がゼロということはありえない。
 原子力損害賠償制度によれば、原発事故の損害賠償負担は、第一義的には電力事業者(ここでは東電)が無過失・無限の賠償責任を負います。ただし、電力事業者の支払能力を超える損害賠償負担が発生する場合には、原子力損害賠償補償契約により、国が国会の議決により政府に属せられた権限の範囲内で電力事業者を支援(金融面、予算面、税制面での支援)することになっているようです。前編で分析したように、現時点の東電には、最低でも数兆円単位といわれる損害賠償負担に長期に渡って応じる財務余力はありませんから、当然国が何らかの形で損害賠償負担の一部又は全部を肩代わりすることが想定されます。

 上記1,2をまず前提条件と置くと、東電の株主、債権者及び国の間でどのように原発事故関連の負担額がシェアされるかにより、今後のシナリオは以下のようなパターン分けを行うことができるのではないでしょうか。

 株主価値ゼロ、債権者価値ゼロ(または一部減額)とした上で残額国負担
 
東電が事業継続再建型の法的整理(会社更生法、民事再生法)を適用申請した場合などに典型的に想定されそうなシナリオです。株式を紙切れにして、債務も一部または全部をカットした上で、国が新たなスポンサーとして損害賠償負担に応じ、東電の事業継続を支援するというシナリオです。(JALの再生に近い方式です。)この場合、株主の持ち分価値ゼロとなることは一般的ですが、債権者にまで負担を強いる(債権の一部又は全部が貸倒となる)わけですから、被害は甚大です。

 株主価値、債権者価値をそのまま残し、東電として返済可能な債務を一部負担した上で、残額を国が負担
 
東電が事業継続しながら負担できそうな損害賠償負担額をあらかじめ確定して(平均FCFの20年分など)それを上回る金額は事実上免責(国が作った基金から補填するなど)します。その上で、東電が今後の事業継続に必要な運転資金は国が債務保証するなどして、東電の現行組織、株主・債権者構成を維持し、その後の電力事業から創出されるCFで、東電の債務分担額(損害賠償の他、原発廃炉費用等を含む)を長期に渡って細々と返済していくシナリオです。
 会社というのは赤字になろうが、巨額の債務超過に陥ろうが、資金ショートしない限りは倒産しません。国の絶対的な債務保証があれば、身軽になった東電には金融機関もおカネを貸すでしょう。ただ、この場合もそれ相応の債務分担額を東電は求められるでしょうから、既存債権者はともかく、株式時価総額が震災前の水準近くに戻り、株主配当が早期に復活するということは、現実的にはありえないのではないでしょうか。

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 例えば政府が特別立法を作った上で、以下のような方式で東電を処理することが考えられます。
 東電に現在の株価付近で第三者割当増資をさせ、いったん国がそれを引き受け、東電の持株比率の大半をおさえた上で、資金支援(債務保証、貸付)などを行う(特別な法律を根拠に、国に株式の第三者割当を引き受けてもらったりそな銀行の国有化に近い形式です)。
 発電事業と送電事業を分離して、送電事業(関連資産・負債・切り出した事業が負担可能な有利子負債など)だけを第二会社や同業他社に会社分割などで切り出して売却し、その事業売却収入と国からの支援金などを損害賠償債務等の返済にあてる(水俣病の損害賠償義務を負担してきたチッソなどがこのような方式のようです)。
 のカテゴリーには、他にもいろいろなパターンが考えられるのでしょう。いずれのケースでも債権者の価値は一定程度以上保全され、既存株主の価値は、希薄化や重要財産売却を原資とする損害賠償債務補填で相当棄損した形で残ることになるのではないでしょうか。

まな板の上の鯉のゆくえ
 
いずれのシナリオをとるにしても、東電が国から巨額の支援を得るにあたっては、国会決議が必要であったりするわけで、今後の政治動向によって,ら△隆屬覆蕕个いようにも振れそうです。
 ただ、これまでの震災後の東電の対応を見るに、その経営者責任が完全に免責されるのは困難であるような気もします。だとすると、既存株主にとって最も都合の良い△離轡淵螢の実現可能性も、「推して知るべし」というところなのかもしれません。
 「先のことは神のみぞ知る」ということでしょうが、既に東電株は賭博銘柄と化していますから、個人投資家の皆さんにはやはり「手出し無用」ということになりましょう。

 なお、ここまでの記述は、あくまで私の個人的思考訓練の過程を記載しただけであり、法的な手続の正確性や、将来予測の確実性を担保するものでは一切ありませんので、ご理解下さい。ただ、この程度の内容でも、全国60万人の東電株主のうち、専ら塩漬けを決め込んで思考停止してしまっている皆様の将来意思決定の材料の一助となれば幸いです。

追伸
 東電株が原発リスクを顕在化させたことで、電力株は総崩れで下げトレンドのようです。ただ、よく調べてみると、沖縄電力には原発がありません。もちろん燃油上昇リスクなどはありますが、「この会社、もう少し配当を出してくれるなら、投資家目線で見ると魅力的かもしれない」と思うのは、私だけでしょうか。

| cpainvestor | 23:46 | comments(4) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment
3が一番ありそうですね。

チッソ・JAL・長銀・国鉄など過去の国営化企業や破綻企業、トラブル企業の事例を組み合わせたような感じになるのかなと。

ツイッターでウルトラCとして賠償責任を国が引き受けた上で長銀のように外資への売却がありえるという意見を読んで、可能性は低いと思いつつも、なるほど〜とうなったり。

しかし、経済的な影響を考えると電力不足は原発以上の影響ですね。まさか電力がボトルネックになる時代が来るとは・・・。

電力不足によって企業が変わり、働き方が変わり、ライフスタイルが変わり、国の形が変わる、しかも急激に、と予想してます。
Posted by: ny |at: 2011/04/10 9:28 AM
情報が錯綜しているなか、分かりやすい説明をありがとうございました。
Posted by: M&A |at: 2011/04/16 11:31 AM
nyさま 

いつもコメントありがとうございます。
最近の報道では、基金プランが出てきましたね。シナリオ2に株主負担を加えた内容のようですね。

配当優先株を基金に割り当てるということになると、既存株主は割を食いますね。

こちらはシナリオ想定の範囲内ということになりますが、国会でどのようなどんでん返しがあるかわかりませんので、成行きを注意深く見守りたいと思います。

Posted by: cpainvestor |at: 2011/04/17 10:59 AM
M&A様

ご訪問ありがとうございます。
またのぞいてやってください。
Posted by: cpainvestor |at: 2011/04/17 9:12 PM








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