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コントロールと組み立ての妙
  今年の自分自身の仕事上の具体的な課題として、「コントロールと組み立ての妙で、130キロのストレートでも強打者から三振をとれる、いぶし銀のピッチングを目指す」というのがあります。

  こう言っても何を意味するのかは、読者の皆さんにはわからないかもしれないので、もう少し具体的に説明します。

  私が最近、主力業務としているM&Aでの企業調査は、顧客(主にはターゲット企業のバイヤー)の要望が千差万別であるため、常にフルオーダーメイドの対応が求められます。また、顧客の納期に対する要求は非常に厳しいにもかかわらず、それなりに大きな予算を使うこともあって、多くの無理難題、追加作業を私達に求めてきます。ちょっと段取りが悪かったり、現場でミスが発生したりすると、とたんに顧客からのクレームを受けて、火災炎上となったりするわけです。(ITベンダーのシステム開発のプロジェクトなどに似ているかもしれません)

  そういった事故への対処策として、何人かの「職人」たる同僚は、とにかく「徹夜をしてでも、顧客の要求する作業を根性でやりとげる。顧客の期待を大きく上回るサービスを提供することに、常に全身全霊を尽くす」という形で対応しています。かつての私も、そうすることが、最終的に顧客の信頼を勝ち取ることにもつながり、自分の能力もストレッチすることができるのだと思っていました。ただ、数年前から、私の考え方は少し変わり、「このような仕事のスタイルは、本当のプロの仕事の仕方ではないのではないか」と思うことも多くなりました。


  そう思うようになった理由は、次のようなことからでした。

仝楜劼砲箸辰討痢屮機璽咼垢紡个垢覯礎祐僉廚論藝綱別である。
  ものすごい分厚いレポートで細かな分析をしてくれることを喜ぶ顧客、休日・夜間に電話しても回答してくれる利便性を喜んでくれる顧客、とにかく値段の安さや報告までのスピードが速いことだけを喜ぶ顧客など、提供したサービスに対する顧客側の評価するポイントは、本当に千差万別です。その意味で、自分達の価値基準で良かれと思って一生懸命作った成果物が、完全な自己満足的サービスとなってしまい、むしろ、顧客ニーズを読み違えて逆効果を生んでしまうようなケースは、過去に何度も遭遇しました。

個人の能力に依存した卓抜なサービスの提供は消耗が激しく、長続きしない。
   仕事命、私生活崩壊?みたいな特定のスーパーマンの能力に依存したサービスは、そのスーパーマンが何らかの理由で業務遂行不能に陥った場合に提供不能となるリスクが高いです。また、そのスーパーマンのレベルにチームメンバーがついていけず、チーム全体が内部崩壊してしまうリスクもあります。プロジェクトが終わるごとに退職者が続出するようなプロフェッショナルファームは、やはり何らかの機能不全に陥っているような気がしてなりません。

「どこで利益を出すか」という戦略がない。
  毎回、毎回、「自らの限界に挑戦」みたいな最高品質のサービスを求めていると、どうしても労働時間が長くなる傾向があり、コストが増えます。これを毎回、これは「研究開発費だ!」とか「勉強代だ!」とか言って採算管理を甘くすると、本当に赤字プロジェクトと採算スレスレプロジェクトばかりの労働集約型産業ができあがります。「このプロジェクトで得たノウハウを別のクライアントに横展開すれば利益が出る」とか言っておきながら、「常に自らの限界に挑戦」のサービスを求めるお客さんに囲まれてしまい、実際には横展開できる「くみしやすい顧客」はいなくなっていたりします。

じ楜劼隆待値、目線を調整する仕事も、重要なプロとしての仕事である。
  運よく、顧客の期待値を大幅に上回る、「心の琴線に触れる」サービスを提供した場合、その瞬間はものすごく喜ばれますが、つらいのは、「次回は最低限このレベルで、できればもっとすごいものを」と期待されてしまうことです。これは、トップセールスマンがその年のセールス目標値を達成してしまうと、翌年は、その目標値が最低ノルマになってしまうのによく似ています。
  「良いサービスを提供するほど、顧客の期待値が上がってしまい、自らのクビがしまる」というジレンマは、多くのビジネスマンが実感されていることではないでしょうか。このジレンマを打破するために必要なのは、「顧客の期待値をうまくマネジメントする」という能力です。以前このコラムで紹介した「コントラストの原理」なども顧客期待値のマネジメント手法として使えるのではないでしょうか。
  ポイントは、「できるだけ、顧客の期待値は抑制し、関心のありかを明確にしておいた上で、その期待をちょっとだけ上回る、顧客の関心のありかにドンピシャのサービスを継続して提供する」これが、同一のサービス業をできる限り長続きさせるためのコツではないかと思っています。
  野球のピッチングに例えると、「チェンジアップや緩いカーブを投げて、相手の目に遅い球をものすごく意識させておいて、それほど速くはない130K台後半の、内角をえぐるストレートで見逃し三振」みたいなイメージです(野球が分からない方、すみません)。



  家族を持って、職業人以外にも様々な役割をこなしながら、仕事をしていかなくてはならなくなると、自分一人の能力でできることはたかがしれていて、組織内のメンバーの力を借りなくてならないということが、しみじみとわかってきます。その意味で、やはり「継続可能な組織プレー」というのが、極めて重要であることも改めて実感します。そのために、「顧客の期待値をマネジメントすること」「組織内の要員の代替可能性を高めるべく、各人の能力の底上げをはかること」そういった、「コントロールと組み立ての妙」のような能力も今年は磨いていきたいと思っています。

  今年の目標は「目指せ!、会計士業界の小宮山悟」といったところでしょうか。
| cpainvestor | 17:40 | comments(6) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment
この記事(も)本当に同感です。

ブログ主さんとは業種も会社も違うけれど、手に取るように実感しています。

おそらく、クライアントが明確で、個人に成果が帰される専門職に若い頃から全力投球し、その結果サバイブはしたけれど、家族も出来て・・・というようなキャリアが似ているのかな、と勝手に思っています。

私の場合、性格的なものか、「打たれると分かっている緩いカーブ」を投げられないんですよね…。
Posted by: mc |at: 2008/03/23 11:49 AM
経営雑誌を読んでいるかのようなクォリティーで、プリントアウトしてよく読んでみました。
私は個人の戸建て住宅の設計をしており、分野は違うのですが、ものすごく参考になりました。文中にあった、顧客の要望が千差万別であるため、常にフルオーダーメイドの対応が求められる、また、顧客にとっての予算が高い商品である、という、仕事柄の傾向が(規模の差はあれ)似ているからでしょうか。
ちなみに、△鉢の部分、建築家の先生の個人事務所の多くでは、所員を極端に低い丁稚奉公制で長時間働かせることにより吸収しています。もちろん入れ替わりは激しいです。
それから、フルオーダーメイドからエッセンスを抽出して標準化を目指したのが、建売住宅であり、マンションの販売方法かと思いますが、ここから先は個人的な関心ですが、それでもまだ、住宅におけるサービスは大掛かりで顧客から遠く(わかりにくいし、欲しい結果を得るのは難しい)リピート性も低い。そこをなんとかするニッチがあるのではないか。たとえば、切り口を変えるとか、住宅のさらに一要素を抜粋して、ユーザーにとって安く手軽にとりいれられる、躯体における、工夫ににた商品作りはできないか、とか考えたりしています。(この説明では意味わからないですよね。すみません。)
Posted by: kiki |at: 2008/03/23 12:58 PM
mc様

独りよがりのエントリーにコメントをいただき、ありがとうございます。

打たれると分かっているカーブでも、私の場合は結構投げたくなるんですよ。速球派で鳴らすのは限界なのかもしれません(笑)。

Posted by: cpainvestor |at: 2008/03/29 1:20 AM
kiki様

ご自身の職業に照らした、詳細なコメント、感謝いたします。大変参考になりました。

家造りというのも、その本質はまったく私がやっているようなサービスと同じなのだというのがよくわかりました。

丁稚奉公モデルは、今の時代、だんだんと苦しくなってきているのではないかと思います。丁稚が優秀過ぎると、寝首をかかれることも多く(顧問先のお客さんをごっそり持っていかれることも多く)苦慮している同業者も多くいます。建築業界はあまりリピートビジネスではないので、そういうことはないのでしょうかね。



Posted by: cpainvestor |at: 2008/03/29 1:25 AM
私はまだ会社では下っ端ですので、今のところ顧客の期待値をマネジメントすることはありませんが、将来的には身に着けたいスキルだと思います。
根性論でこなしていくスタイルにはずっと疑問を持っていたのですが、このお話を読んで、自分が将来目指すべきモデルが見つかったような気がします。
大変参考になりました。

それと、今回の小宮山選手の例えですが、私は野球が大好きなのでとてもわかりやすかったです 笑
小宮山選手みたいな老獪なピッチャーはとくに好きなので、目指すべきものと好きな選手が繋がって、少し嬉しい気分です。
Posted by: Mee |at: 2008/03/29 6:38 PM
Mee様

ご訪問、ありがとうございます。
仕事論での、コメント、私自身とても勉強になります。

今後ともどうぞよろしくお願い致します。
Posted by: cpainvestor |at: 2008/04/02 1:46 AM








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