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大学院教育投資のリターン
  
  先日、出張で名古屋に向かう新幹線の中で読む本がなかったため、慌てて東京駅の書店に立ち寄り、目に留まった書籍 『高学歴ワーキングプア〜「フリーター生産工場」としての大学院〜』 を買い求めました。新幹線の中でサラサラっと読んだだけですが、低収入の大学の非常勤講師などを掛け持ちしながらアルバイトを続け、任期が限定されていない大学教員などの常勤職を目指す30歳過ぎの博士号取得者、博士課程修了者が多数発生し、生活に困窮している現状が切々と書かれていました。著者自身も同様の境遇の「ワーキングプア予備軍」として、本人の職業選択意識の問題を挙げつつも、同時に少子化の中で既得権を維持すべく、猫も杓子も大学院教育を充実させた大学側とそれを後押しした文部科学省の責任についても強く批判していました。

  この書籍を読んで私が感じた強烈な違和感は、「そんな歳になるまで、大学院で勉強させてもらえるような知力と時間と資金力がありながら、なぜ、どのようにメシを食っていくかということを当人達は真剣に考えて行動しなかったのだろうか?」という至極当たり前の疑問です。

  普通に考えても、少子化で大学の数は減少し、教員の就職口は減っていく一方で、東大、京大を初めとする従来からの大学教員養成大学院の大学院生数が大幅に増加しているわけですから、大学教員の道が狭くなるのは当たり前です。冷静に自分の通っている大学院の序列、学生の中での序列、指導教員の経歴などを考えれば、「自分が大学教員になれる可能性」というのは、ある程度わかると思うのです。本当に食べることに困る状況が想定されるのなら、少なくとも修士が終わったあたりで「まずは手に職を・・・」などと自ら動くのが普通の感覚だと思うのですが、この本を読んでいると、「フリーターのオーバードクター達は、国の大学院重点化政策の犠牲者だ!、これは個人では解決が難しい構造問題だ!」というトーンばかりが強調されている印象を持ちました。

  これは、非難を覚悟の上での個人的私見ですが、特に文系の全日制大学院などというものは、ごく一部の選ばれた人間だけに許された「贅沢消費」なのではないかと思います。私も機会があったら、今でも大学院で勉強してみたいとも思いますが、そのために費消される時間的・経済的資源や機会費用を考えると、通うに値するリターン(将来その専門性が生かせる職業につけることなどを想定)が期待できる大学院は、正直なところ、相当に厳選されるのではないかと思います。その意味で、働ける能力があるのに文系大学院へ進学する余裕があるなどというのは、「実はものすごく恵まれた環境にいる人間の相当な贅沢」だということが、進学を決めた当の本人達の多くがわかっていたのかどうか・・・。(変な見返りを求めず、自己実現のための贅沢消費だとわりきれば、上記書籍の著者のように制度の問題に転嫁する発想にはならないと思うのですが・・・)

  最近、私のところの職場でも「会計大学院」出身の新人が多数入ってくるようになりましたが、特に財務や会計などは、本来、実践の学問であり、昼間に大学院で実務の現場を知らない教授から2年間も長々と講義を聴いて学ぶ価値のあるものなのかどうか、個人的にはどうしても疑問が残ります。実際問題、同じ新人でも、新卒の会計大学院出身者などより、金融機関や事業会社などでの社会人経験者の方がよほど使えたりするケースも多いです。今の科目合格が認められている会計士試験制度なら、一刻も早く科目合格して、実務の現場に飛び込んで、残りの試験に挑戦しながら丁稚奉公をした方が、よほど早く「食える人間」になれるのではないかと思います。
  今の会計士試験は会計大学院を卒業しても最初の短答式試験が免除されるぐらいのようですが、もし、司法試験のように専門職大学院を卒業することが「実質的な受験要件」というような状況に将来的に変化していくとしたら、これは、いくら奨学金制度を充実させたとしても、経済的に厳しい境遇にある人間に対する「逆差別」になるような気がします。(経済的に厳しい境遇にある人間は既に、大学卒業時までに多額の奨学金債務を負っている可能性があります。その上、実質的な意味での費用対効果が微妙な大学院に通うためにさらに借りたら、借金が増えるばかりです。)
  
  私自身、会計大学院に通ったわけではないので、本来このような批判をしてはいけないのかもしれませんが、それでも、専門学校で必要最小単位の講義だけ受講し、朝から晩まで無料で借りられる自習室の机にへばりついて、3年半の貧乏生活を耐えた経験(特に最後の1年半は、無職)が、今の仕事を続ける忍耐力と我侭を許してくれた両親への感謝の気持の原点になっているのは間違いないと思われます。

  学校教育投資に対する考え方は、人それぞれ、千差万別でしょうが、「試験合格者制度をなくし、大学院卒業者のみを専門職にする」という試験制度の改悪だけは、なんとしても避けてもらいたいと思います。

  ようやく今年、大学時代の奨学金債務の返済を終える一実務家の戯言でした。
| cpainvestor | 00:23 | comments(6) | trackbacks(0) | pookmark |
Comment
文系の大学院もそんな感じなのですね。

医学部を出てから行く大学院も、少なくともコストパフォーマンスという観点から考えると、全く無意味です。というか、はっきり言うと、マイナスです。
医学部を出てから行く大学院は研究をするところなので、僕自身の感覚としては、臨床(実際に患者さんを診る)にとっても殆どプラスにならないと思います。
臨床家を志していた僕は、途中で大学院を辞めました。最初から大学院に入らないのがベストだったと思うのですが、我ながら良い選択だったと思っています。

最後の一行を読んで、すごく親近感が湧いたので(僕はもう少し払わないといけなかったはず)、コメントしてしまいました。
Posted by: のっぽ187 |at: 2008/08/02 2:25 PM
のっぽ187様

 コメントありがとうございます。

 お医者様の世界は、「医学博士」が普通なのかと思っていましたが、そうでもないということなのでしょうか。

 「可能性を広げる」教育の世界にコストパフォーマンスの考え方を取り入れることをタブー視する方も多いようですが、私はそうは思いません。
 考え方が貧しいといわれるかもしれませんが、「何の分野でも良いので、まずは自分の力でメシを食えるようになってくれ」というのが、私の息子達への教育方針の原点になっています。

Posted by: cpainvestor |at: 2008/08/03 12:18 AM
結果だけを見て、物事を判断するのは危険です。大学院進学、民間への就職、弁護士・会計士資格取得など、目標はいろいろありますが、どの選択肢にも、誰にも予測できないリスクはあります。
今後は金融庁の会計士合格者乱発で、路頭に迷う会計士が新聞に取りざたされる可能性も十分ありますが、仮にその場合が起きた時、自己責任論であなたはかたずけられるのでしょうか。
研究者を志して、大志を抱いて大学院へ進んだ院生のなかで、就職難という先行きのリスクは十分予見しているにもかかわらず、研究者になりたいという意欲と自信、そして平均的な会計士合格者の比較にならないくらいの時間と労力を費やし、勉強・研究に没頭し、努力をかさねた優秀な人たちも少なくありません。しかし、教員の採用において、指導教員の政治力等、個人の努力にままならないところが多くあり、また、諸条件により、優秀な者からポストに就けるという理論通りの競争条件は残念ながら期待できないところに問題がありあます。
ですので、あなたがあくまで自己責任論を振りかざすのであれば、以下の事実(情報)を学生が知っていることが前提となるでしょう。
ゞチ茲不完全であること、▲僉璽泪優鵐肇櫂好箸暴△韻觴圓粒箙腓砲弔い討寮騎里幣霾鵑鯒聴できること
△砲弔い討蓮国の政策に大きく依存するため、予見できません。

どんな道であれ、リスクはあり、予測できないことのほうが多いのです。個人の自己責任というより、20代の貴重な時期を費やして勉強・研究を行ったものが、フリーター同然の待遇に甘んじなければならない社会の構造が問題なのでしょう。
Posted by: まい |at: 2009/02/18 2:00 PM
まい様

 ずいぶん前の私の一方的な私見に貴重なご意見を頂き感謝いたします。

 おっしゃるようにどの仕事を選ぶにしても、誰にも予測できないリスクはありますし、教員の採用に限らず、コネや政治力がモノを言う世界は多いですよね。

 ただ、それを「社会の構造の問題だ」と強力に主張するこの本の著者の意見を飲み込んでしまうと、そこで当事者個人としては思考停止になってしまうような気がして、とても違和感を感じたもので、上記のエントリーとなりました。

 私ども会計士の業界も大量増員で同様のことが起こることは、十分に予想されます。そうなればそうなったで、その変化を受け入れて、なんとか生き残っていくしかないわけですよね。

 私も全てを自己責任で片付けるつもりはありませんが、やみくもに一つの道に没頭するだけではなく、変化や不確実性には常に敏感でありたいと思っています。
 「生き残るための差別化要素は何なのか」を自問自答する今日このごろです。

Posted by: cpainvestor |at: 2009/02/19 1:24 AM
勉強はできても世間知らずというのが高学歴の人には多いです。特に国立は学費も安く負担意識がないため、とりあえず進学というのも珍しくないですし。

とりあえず学費を私立並みに上げてみてはいかがでしょうか。
Posted by: 稲葉 |at: 2009/06/10 2:28 PM
稲葉様

教育サービスのレベルはそこそこでも、インフラ面なども含めると価格パフォーマンスがとても良いので国公立大学を選択した(というか経済事情で選択せざを得なかった)という元貧乏学生としては、「超難関でない国公立激安大学」は、ずっと経済合理性を無視しても残っていて欲しい存在です(笑)。

Posted by: cpainvestor |at: 2009/06/19 5:32 PM








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